Natureでの学術機関へのMastodon参入提案記事掲載

Mastodon/news
概要

イギリスに拠点のある国際的な週刊科学雑誌のNatureに、学術機関へのMastodon参入を提案する記事が掲載されたとの話題があったので紹介します。

2023-02-21 Tueの以下の投稿群で告知されていました。

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Nature has just put out correspondence that calls for scholarly institutes to join the , and start their own instances.

Together with that, the writers put out a longer article, ‘Mastodon over Mammon’, that explains the argument in greater detail, and is worth reading.

Great work by @brembs et al, which points to the core issue: the private ownership of public commons.

Full version:
zenodo.org/record/7652771
Nature Correspondence:
nature.com/articles/d41586-023

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Many scholars are leaving Twitter for , a public, decentralized alternative, impervious to private take-over:

science.org/content/article/mu

Scholarly organizations are already supporting this migration:

nature.com/articles/d41586-023

and

doi.org/10.5281/zenodo.7643817

There are analogous solutions for another public good in private hands: journals. There are even levers the scholarly community could pull to incentivize an analogous migration:

doi.org/10.5281/zenodo.5526634

What are we waiting for?

「Björn Brembs」が寄稿した記事で、上から3番目の投稿が最初の告知で、4番目の投稿が1000回以上再投稿されていて話題でした。

Mastodon: a move to publicly owned scholarly knowledge」がNatureに掲載された、学術機関に分散SNSへの参加を呼び掛けた有料記事です。

Mastodon over Mammon – Towards publicly owned scholarly knowledge | Zenodo」はNatureの記事とほぼ同じ内容のもののようで、こちらはオープンアクセスになっています。こちらの記事の内容を簡単に紹介していきます。

他に「Replacing academic journals | Zenodo」で、学術ジャーナルのアクセスについての記事もありました。こちらは分散SNSとは若干内容が離れるので、紹介を見送ります。

なお、冒頭に「Natureが #Fediverse に参加する。」とありますが、これはミスリーディングで、「Nature上に分散SNSへの参加を提案する記事掲載」というのが実際のようです。

Abstract

Elon MuskのTwitter買収を受けて、Twitterは混乱状態になっており、Twitter上の学術コミュニティーが移行し始めている。

学術機関は、Twitterに代わる分散型の代替ツールのMastodonの開発と実装の最前線に立っている。

今のこの状況は過去にもあった。2009年のFacebookによるFriendFeedの買収だ。買収後、FrinedFeedからの離脱を余儀なくされた。

営利企業による、学術情報という公共財の占有という危険性が明白になってきている。短文 (Twitter/Mastodon) と長文 (ジャーナル) の両形式で、対応する分散型のソリューションが存在し、一部の機関は対応している。

学術機関は、これらの分散SNSへの対応を検討し、Mastodonサーバーをホストして、TwitterからMastodonへの学術コミュニティー移行へ対応する絶好の機会に直面している。

学術コミュニティーが、私的買収を受けない、真に公的な言論の場を作れることを示すことは、学術記録・知識の保護を奮起させるだろう。

A public good in private hands – again

2022年10月末のElon MuskによるTwitter買収を受けて、公共財の私有化の問題が注目されるようになった。

科学者にとっては、2009年のFacebookによるFriendFeed買収と似たような状況となる。FrinedFeedは結局その後2015年に閉鎖された。

これは民間の営利組織による学術コミュニティーのプラットフォームの保有の危険性を、ユーザーが感じ取り議論された事例の一つだった。

その後、15年経過したが、この間にW3CのActivityPubがソーシャルテクノロジーのオープンスタンダートとして、一種の解決策として生まれた。

2009年にFrinedFeedからTwitterに移行した約50万人の研究者コミュニティーは、#ScicneTwitterと呼ばれるコミュニティーを設立した。その後、多くはMastodonに移行した。

企業の気まぐれから学術記録を保護するために、移行推奨を提案する。

A golden opportunity

いくつかの学術組織が既に活動している。

  • neuromatch.social: Neuromatch:
  • ellis.social: European Laboratory for Learning and Intelligent Systems
  • social.cwts.nl: the Dutch Centre for Science and Technology Studies
  • mastodon.dias.ie: the Irish Dublin Institute for Advanced Studies
  • helmholtz.social: the German Helmholtz Centers
  • social.mpdl.mpg.de: Max Planck society
  • fedihum.org: Society for Digital Humanities

この他に、Giorgio Gilestro: drosophila.socialのように、個人が自分のコミュニティー向けにサーバーを提供したりしている 。

我々は、多くの学術組織にサーバーのホストを呼び掛けている。学会がホストするのに適しているいくつかの理由がある。

Striking parallels

Twitter以外にも、例えば学術出版や、論文のオープンアクセスなどで、似たような独立運動がかつてあった。ただ、オープンリポジトリ―は達成に20年かかった。

元々学会は、富や名声よりも、好奇心や探求心が重視されていた。途中で、富と名声に動機付けが変わってきた。

Professionalization of some scholarly societies

今の学会は、何万人ものプロの研究者がおり、ジャーナル発行、賞の授与などを行っている。ただし、運営には資金とスタッフが必要。学会の収入源は回避が2-28 %で、出版収入は28-88 %。

スタッフの資金維持のために出版収入への依存は、利益相反になる。収入源に大きく依存する。特に、多数の学会が出版ビジネスのために大企業の一つにアウトソーシングしていた。これが20年かかった理由。

Some societies lead by example…

ソーシャルメディアへの取り組みで最も認知されているのはHumanities Commons (HC) の学会。ネットワーク内で各自の専門的なプロフィールを作成し、共通テーマで話し合い、出版物を作成して、作品を共有していた。無料で利用できる。助成金と寄付で資金提供されている。共有インフラに投資する学術団体の協力の上に構築されている。これは、2013年にMLA Commonsを立ち上げたModern Language Association (MLA) ga発端となっている。

南半球では、デジタル・インフラ共有の協力の長い歴史がある。共同出版曽木のSciELOは1997年に設立され、現在16か国を支援して、学術出版物へのオープンアクセスを提供している。他には、Redalyc/AmeliCaがある。こちらは、多様なソースから資金提供を受けて、科学交流のためのインフラを構築している。

これらは、共有リソースの価値を認識しているコミュニティーが、共有コモンズの維持のための創造的な方法を試行錯誤していることを示す。HC/SciELO/AmeliCAは著者や読者に料金を請求することなく、民間の学術雑誌の何分の一かのコストで、コミュニティーに巨大で成する価値を提供する。例えば、Wikipediaのように、デジタル時代の高品質で価値の高い学問には、巨額の資金や巨大な不公平は不要で、献身的なコミュニティーと共有のデジタルインフラだけが必要であることを示している。

…while others are more hesitant

過去に学術雑誌のオープン化の動きがあったが、学会内で反対運動があって、何度も頓挫してきた。一部の学術団体が、自らの収入を優先しているように見える。

昔は理解できたが、今は財政的な懸念を理由に社会的使命を危険にさらすことは時代錯誤に見える。デジタルアクセスを取り入れてほしい。

Realizing the ’social’, from Tweet to monograph

歴史的に、学術交流は手紙、会議、記事、モノグラフなどいろいろあった。が、ジャーナルとモノグラフだけが残っている。

#ScicenceTwitterでTwitterでのコミュニティーがあった。メンバーの一部は、現在の騒乱があるにも関わらず、とどまっている。ツイート、論文、モノグラフの散在・分離は、歴史的なものだ。

コミュニティーがオンラインで構築され、ジャーナルの意味が低下して、年次総会まで議論が待てなくなった今、明らかだろう。学術的な記録を維持できるように、所有権を取り戻すことを提案する。

分散SNSとMastodonがこのコンセプトの最先端であり、道を示している。

結論

Elon MuskによるTwitter買収を受けた学術機関の分散SNS参入を提案する記事でした。

2009年のFacebookによるFriendFeed買収という、過去の類似の状況を引き合いに出しており、こちらの騒動は知らなかったので参考になりました。このときと現在とで大きく違うのはActivityPubや分散SNSの普及状況です。2008-05-05にGNU socialの第一コミットがなされたばかりで、2009年は分散SNSが誕生したばかりで時期が熟していませんでした。

そのほか、学術雑誌のオープンアクセスなど、学術情報の公有化の話と、なぜ公有化に時間がかかったのか、各地での公有化の取り組みの紹介がありました。インフラを共有できれば、民間よりもはるかに低いコストでオープン化を維持できるようです。これは、分散SNSのサーバーの多くが寄付で運営されているというのと似ているかもしれません。

学術機関のSNSの利用に関する話題でもありました。私は大学院の修士課程を修了しており、少しだけ学術研究の世界を見ていました。その当時の知見からすると、少なくとも日本では、学術交流というのはクローズドなものが中心で、SNS上で議論を交わすというのはほとんどない印象があります。せいぜい、講演会だとか、学会、研究室内など、そういう限られたややフォーマルな場所での議論が中心に感じます。

それでも、学術雑誌のオープンアクセス化に関しては、欧米主導なのもあり日本でも進んできている気がします。ただ、学術機関のSNS進出、SNS上での学術交流は日本ではなかなか進んでいないような気がします。それが進んでいるならば、COVID-19の対策論などもっと国民的な合意が進んでいるでしょう。

記事全体を通して、私には反Twitterを訴えるやや左派的な内容に感じました。分散SNSはTwitterに比べると、市民の認知度は少ないので、市民との学術交流という意味ではTwitterは継続して重要だと思います。分散SNS vs. Twitterという対立軸で考えるのではなく、お互いうまく共存していくのがよいと私は思います。 私企業による言論の場の私有化と学術情報という公共財を考える記事でした。

コメント

  1. […] 「Natureでの学術機関へのMastodon参入提案記事掲載 | GNU social JP」で登場したFriendFeedもそうですが、Metaはソーシャルアプリを買収も含めて多数構築・検討しています。今回もその一環だと […]

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