書評: イーロン・マスクとは何者か | エンジニアのDNA、幼少期の読書、大学での知見が根底

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概要
  • 書名: イーロン・マスクとは何者か
  • 副題: 世界を救うヒーローかクレイジーな夢追い人か
  • 著者: 桑原, 晃弥
  • ISBN: 9784434310614
  • 出版: 2022-10-26
  • 読了: 2023-01-12 Thu
  • 評価: ☆3
評価

速報: Elon MuskによるTwitter社買収完了 | GNU social JP」で紹介したとおり、2022-10-28 FriにElon Musk (イーロン・マスク) がTwitterを買収しました。

買収者のイーロン・マスクについてよく把握していなかったところ、買収直後の2022-11-09に「ツイッターを買収した「世界一のお金持ち」。イーロン・マスクの正体に迫る 『イーロン・マスクとは何者か』 | BOOKウォッチ」の記事で本書を知り、興味を持って読みました。

書籍の構成は以下でした。

  1. 直近話題だった内容の紹介 (Twitter買収、SpaceXのスターリンク)
  2. マスクの世間を騒がせた発言の紹介 (テレワーク否定、日本消滅)
  3. SpaceXとテスラの紹介
  4. マスクの半生と仕事術・今後

直近話題だった内容を冒頭に持ってきて、本人については半ばから後半に記されていました。この書籍の構成が個人的に読みにくくて悪かったです。

こういう構成のせいで、マスク個人についての情報や、会社や事業の話があちらこちらに分散していて、同じ内容かと思えば、微妙にそこにしか書いていない内容があり、リファレンスとして非常に使いにくいものでした。

できることなら、マスクの本質的なところや、半生を最初に持ってきて、そこから最近の話題を紹介してほしかった。そちらのほうが理解しやすいからです。著者はビジネスの有名人の書籍を何冊も書いているようですが、他の書籍もこういう構成ならできれば読みたくないなと思ってしまいました。

肝心の内容ですが、イーロン・マスクがどういう経歴で、何を考えてここまで来たのかが分かる内容でした。

最初はITで成功したのに、なぜ異業界、それも国家プロジェクト的な事業に転身したのか、なぜハードワーカーなのかなど、奇妙に見える部分が明らかになりました。書籍の構成自体は気に入らなかったのですが、未知の情報を知ることができた点はよかったです。

参考
p. 236: 年表

イーロン・マスクの半生の年表がありました。特に重要な部分を抜粋します。

  • 1971 00歳: 南アフリカ共和国プレトリアで3人兄弟の長男として誕生。
  • 1979 08歳: 両親が離婚。母親と南アフリカの都市を転々とする。
  • 1981 10歳: コンピューターに興味を持ち、プログラミングを独学。
  • 1983 12歳: ソフトウェア「ブラスター」を自作、雑誌に掲載され500USD獲得。母親を離れ父親と暮らす。
  • 1988 17歳: プレトリアボーイズ高校で大学入学資格を得て、プレトリア大学に入学。5か月で中退。
  • 1989 18歳: 母親の出身カナダに移住。労働の日々。
  • 1990 19歳: カナダのクイーンズ大学に入学。
  • 1992 21歳: アメリカのペンシルベニア大学ウォートン校に編入。物理学と経営学を学ぶ。
  • 1995 24歳: カリフォルニア州スタンフォード大学大学院に入学。2日で退学して弟のキンバルとWebソフトウェア会社「Zip2」創業。
  • 1999 28歳: Zip2をコンパックに売却して2200万 USD獲得。世界初のネットバンキングの一つ「Xドットコム」創業。
  • 2000 29歳: Xドットコムのがピーター・ティールの「コンフィニティ」と合併。後に「ペイパル」に社名変更。クイーンズ大学で知り合ったジャスティン・ウイルソンと結婚。
  • 2001 30歳: ペイパルを「イーベイ」に売却して1.65億USDを獲得。ロケット開発会社「スペースX」を創業。CEO就任。
  • 2004 33歳: 電気自動車開発の「テスラモーターズ」に出資し、会長就任。
  • 2006 35歳: 太陽光発電会社「ソーラーシティ」を創業。会長就任。テスラがスポーツカー「ロードスター」を発表。スペースXの最初のロケット打ち上げ→失敗。
  • 2008 37歳: テスラの会長兼CEOに就任。「ロードスター」の発売。スペースXの4回目でのロケット打ち上げ成功。NASAとの契約締結。妻のジャスティンと離婚。
  • 2010 39歳: 女優タルラ・ライリーと結婚。2012年離婚。2013年復縁、2016年再度離婚。
  • 2015 44歳: スペースXがロケットのブースターの垂直着陸に世界で初めて成功。
  • 2022 51歳: 「フォーブス」の長者番付で資産2190億USDで世界1位。

若年部分が重要に感じたのでそこを中心に掲載しました。

p. 138: 半生

1971年に南アフリカで生まれ、父親のエロール・マスクは地元のエンジニア、母親のメイ・ホールドマン・マスクは栄養士でモデルもやっていた美人。3人兄弟 (弟・妹) の長男。

子供時代は読書好機で1日2冊の本を読み、ファンタジーやSF小説を多く読んだとか。その他、コンピューターにも関心があり、10歳でプログラミングを独学でマスター。17歳のときにアメリカのやる気さえあれば何でもできるという精神と最新テクノロジーへの憧れで移住。

カナダのクイーンズ大学入学後、当時から電気自動車のことばかり考えていたそう。寮内では、注文を受けてゲーム機や簡単なワープロを作って販売したり、コンピューターのトラブル解決で小遣い稼ぎ。大学2年の終了時に奨学金を得て、1992年に念願のアメリカのペンシルベニア大学に編入。物理学と経営学を学び、応用物理学を学ぶため名門スタンフォード大学の大学院物理学過程に進学するも、「新聞などのメディア向けにウェブサイトの開発などを支援するソフトウェアを提供する」アイデアを思いつき、わずか2日間で退学。

1995年にカナダに移住してきた弟のキンバルとオンラインコンテンツ会社「Zip2」を起業。資金がなく奨学金返済もあったため、貧乏生活。貧しくても不幸ではなくハッピーだったからOKだったそう。事業にかける情熱がすさまじく、「自分の人生を会社づくりに賭ける」という視線がVCに伝わり、設立2年で300万ドルの出資獲得。その際に、VCの勧めでCEOに経営を任せたが無能のため解任して自身が就任。その後、コンパックに買収され2200万USDを獲得。

この資金を元手にオンライン金融サービスと電子メール支払いサービスの「Xドットコム」を創業。当時としては世界初のインターネットバンキングの一つ。丁度その頃、ピーター・ティールの創業した「コンフィニティ」も同業で同様のシステムの「ペイパル」を開発。2000年に2社は合併し、社名をペイパルに変更。マスクが会長・CEOに就任。この成功が後の挑戦を可能にした。

ただし、就任後両者の企業文化の違いがあり、社内抗争が激化。マスクのCEO就任後の休暇中にクーデターによりCEO解任。この際の休暇中の解任劇が、週100時間という猛烈な働き方に影響していると思われる。その後、相談役として格下げになるが、我慢して継続して、最終的にイーベイに事業売却となり、1.8億ドルを獲得する。この巨額の資金を元に、スペースX、テスラが始まる。

マスクの始動部分で、彼の根本的に面に関わる要素が凝縮されていました。両親の離婚など必ずしも恵まれた境遇ではなかったものの、親から受け継いだ技術者のDNAや、幼少期から親しんだ読書で夢を膨らませ、ハードワーカーで成功したようです。ITの素養もあったようです。

p. 075: 「エネルギー問題の深刻さ」がマスクを突き動かした

マスクが電気自動車や宇宙進出を考えた理由は、大学時代に抱いた強い危機感がベースだそうです。

「大学で物理を学んでいた頃、地球上の資源は限られていて、対策を何もとらなければ、今当たり前にしている「移動する」という行為自体が困難になると考えました」

p. 106: テスラの始まり

テスラの前身となるテスラモーターズを創業したのはマスクではない。2003年、電子ブックリーダー「ロケットイーブック」を開発したマーティン・エバーハードとマーク・ターペニングという2名のエンジニアが、ガソリン車の代わりの電気自動車を始めたのがテスラ・モーターズでした。ただし、アイデアはあってもお金がなく、マスクに呼びかけたところ、意気投合したそうです。

p. 150: 手にした大金を「人類の未来に最も影響を及ぼす」ことに使う

Zip2、XドットコムとIT業界で成功したマスクが異業界に挑んだ理由。マスクにとって、IT業界は「好きなこと」かつ「得意なこと」だったが、「やるべきこと」ではなかったようです。

大金を獲得後、早くから関心の高かった、持続可能なエネルギーの生産と消費、人類の宇宙進出が思い浮かんだそうです。この理由は「お金を儲ける一番いい方法」ではなく、「何が人類の未来に最も影響を及ぼすか」という視点だったそうです。お金を何に使うかが重要に思っていたようです。

2012年のカリフォルニア工科大学の卒業式スピーチではこう語りかけました。

「どんなものにもためらってはいけません。(皆さんの) 想像力が、限界を決めてしまいます。世界へでていき、魔法を作り出してください」

p. 164: 壮大すぎるほどのビジョンを掲げる

マスクの掲げるビジョンの源泉は、子供時代の読書に由来するようです。子供時代のマスクは、たいへんな読書家で、毎日たくさんの本を読んでいました。当時の愛読書としては、ダグラス・アダムスの「銀河ヒッチハイク・ガイド」、J・R・R・トールキンの「指輪物語」、アイザック・アシモフの「ファウンデーションシリーズ」、ロバート・A・ハインラインの「月は無慈悲な夜の女王」を上げていました。

これらのSFやコミックが世界を救うという壮大なビジョンのベースにあるようです。こrを踏まえて、物理学と経営学を大学で学んだことにつながるようです。経営学は、大勢に人の取りまとめ・協力に必要だと考えたからだそうです。

p. 222: 学生時代の逆境

マスクは学生時代に深刻ないじめにあって何度も転向していますし、大きなケガもしています。父親の横暴にも耐えています。

こういう経験を踏まえて、今の学校は過保護と、現在の教育に対して懐疑的なようです。

p. 242: マスクの仕事の進め方

マスクの仕事の進め方を以下の7点に整理されてありました。

  1. 壮大すぎるほどのビジョンを掲げる
  2. ビジョンを達成するための現実的なマスタープランを立てる
  3. 人前での失敗を恐れず、失敗したら原因を調べてすぐに改善する
  4. 成功するまで決して諦めない
  5. アイデアがあれば、実際に動く試作品をつくることを何より大切にする
  6. 成功に向けて目茶苦茶働く
  7. 目先の利益より長期の利益を優先する

書き出してみればたいしたことはないものの、実行するのは簡単ではありません。ただ、どれももっともなことであり、結局言葉にすると簡単な内容なのだと思いました。

p. 168: 世界の未来にとって重要であり自分自身の努力で変えられるものに挑む

ペイパルで成功後に、異業界のスペースXとテスラを始めます。普通であれば成功した業界に身を置くものですが、この転身についてはこう語っていました。

「世界の未来にとって重要だと思うことがいくつかある。そのなかでも、私が自分自身の努力で変えられると思っているものを、EVのテスラとスペースXで行っている。

重要なものの中の優先度の中で、自分でできるものを考えた結果の判断だったようです。名著「7つの習慣」にもつながる考え方でした。

p. 186: マスクの成果
  1. 1999年当時の銀行業界の常識を覆すインターネットバンキングの設立
  2. ガソリン自動車が当たり前の自動車業界に、電気自動車
  3. 国家レベル事業のロケットを開発
p. 204: 本物の「才能の集中」だけが大きな成果を可能にしてくれる

Zip2時代に、無能なCEOを招聘した経験から、無能な人間には去ってもらうのみという方針を徹底しているそうです。ネットフリックス創業者のリード・ヘイスティングスが、企業に必要なものは量ではなく、才能の密度と語っていましたが、マスクも同じ考えのようです。

p. 209: リーダーはハードワーカーで、率先して解決にあたある

Xドットコム時代からハードワーカーだったが、ペイパルCEO時代の休暇中の解任劇を受け、「起業家は毎週100時間、地獄のように働くべき」という信念を持ったそうです。

テスラでの工場の泊まり込み生活に入った際には、「ここで働く誰よりも悪い環境に身を置きたいから。社員が苦痛を感じているのなら、その何倍もの苦痛を感じたいのです」という、見解を示していました。

p. 213: 社員のハードワーク

テスラの社員は半年ずっと週7日勤務など理不尽な働き方をしていたそうです。これを実現したのは、マスク自身がそれ以上のハードワーカーで、可能な限り社員と「ともにある」ことが、従業員の家族も物語の一部に巻き込んだからなようです。

p. 232: 批判の声に耳を傾ける

マスクは批判の声を聞くことが大切で、批判を聞かないというのはみんながよく犯す失敗の1つだと言い切っています。友人などに意見を求めると、忖度して気に入らないところがあってもよかったと言いがちで、それだと本当の評価を知ることはできません。

みんなが賛成するアイデアは既に時代遅れで、いい話ばかりをするとき、確実に落とし穴が待ち受けています。「異論がない=正解」ではなく、「異論を見落としている」ということもある。

p. 244: 参考文献

参考文献として以下の書籍を列挙していました。

  • イーロン・マスク 未来を創る男 (アシュリー・バンス著、講談社)
  • バイラル・ループ あっという間の急成長にはワケがある (アダム・ペネンバーグ著、講談社)
  • 対訳 セレブたちの卒業式スピーチ 次世代に贈る言葉 (CNN english express、朝日出版社)
  • イーロン・マスク (洋泉社)
  • テスラの実力 週刊東洋経済 eビジネス新書 No.359 (東洋経済新報社)
  • イーロン・マスク 次の標的 (浜田和幸著、祥伝社)
  • 宇宙の覇者 ベゾス vs マスク (クリスチャン・ダベンポート著、新潮社)
  • ツイッターで学んだいちばん大切なこと 共同創業者の「つぶやき」 (ビズ・ストーン著、早川書房)
  • グーグルに学ぶ最強のチーム力 成果を上げ続ける5つの法則 (桑原晃弥、日本能率協会マネジメントセンター)
結論

イーロン・マスクのことがわかる本でした。Twitter買収の話は、彼の優先順位の宇宙やエネルギーの解決がうまく進んできたので、その次の優先順位として上がってきたのだと思いました。

書籍の構成が気に入らなくて、そこは非常に残念でしたが、内容自体は未知の情報だらけで興味深かったです。

幼少期の読書から、ファンタジーやSFのような大きなビジョンを持っており、大学での物理学の勉強で地球の資源についての強い危機感が、その後のスペースXやテスラにつながっているというのがよくわかりました。マスタープランなどきっちりとした論理を持ちながら、異常な情熱を持って取り組める、そういうスーパーマンなのだと感じました。

エンジニアの親のDNAを引き継いでいて、子供の頃からITの素養があって、その才能の片鱗がちらちら見えていました。Xドットコムの成功後あたりからは、凡人には真似できない領域に入るため、最初の名門スタンフォード大学大学院入学2日で退学や、Zip2の起業などもう少し凡人でも真似できそうな部分の情報が欲しかったのですが、そこが足りないのはやや物足りませんでした。

破天荒な言動もありますが、ユーモアがあり、会社の中で、誰よりも厳しい状況に身を置いていたいという、上司としては尊敬したいと思うそういう立派な人に見えました。

マスクの真似をするのは難しいのですが、マスタープランを立てて、それに向かって猛烈に働き、失敗はきちんと直すという、成功の王道を意識したいと思いました。

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