Winny事件の評価

Protocol/P2P
概要

映評: Winny | 日本のネット史上最大事件の裁判録は分散SNSにも通じるのか? | GNU social JP」で記した通り、2023-03-10 Friに日本のネット史上で最大の事件とも噂されるWinny事件の映画が公開されました。

映画公開を契機に、Winny事件についての話題が再熱しました。P2P技術ということで、分散SNSとしても参考になる部分があり、このタイミングを逃すとこの先二度と取り上げる機会がなさそうなので、情報を整理することにしました。

情報源

Winny事件は、2002年に開発が始まったP2P型ファイル共有ソフトで、元東京大学助手の金子勇が著者のソフトウェアWinnyの著作権侵害行為幇助を巡る事件でした。Winny自体は、FreenetというP2Pシステムにインスパイアされて開発を開始されたもので、当時流行していたWinMXの後継を目指す意味を込めて、MXの2文字を次の英字のNYに進めたWinNYが由来となっているそうです。

電子掲示板の2ちゃんねるにWinnyを2002-05-06に始めて公開。その後、金子は著作権侵害行為幇助の疑いで2004-05-09に京都府警察に逮捕されます。刑事裁判は、2006-12-13に一審が罰金150万円の有罪判決。2009-10-08の二審は無罪判決。2011-12-19の最高裁で無罪判決で決着。2013-07-06に金子は急性心筋梗塞で42歳で死去。

P2P (Peer to Peer) は参加者がサーバーにもクライアントにもなる技術で、従来のサーバー・クライアント型アーキテクチャーと異なり、中央にサーバーが存在しないというのが特徴です。そのため、一か所を止めても全体のネットワークを停止できないなど、匿名性を確保したり、検閲回避などが行いやすく、ユーザーの安全確保がしやすいため、犯罪の温床にもなりえる技術のようです。

系列

重要事項の時系列を以下に記します。

時系列
日付内容
1970-07-01Winny著者の金子勇の生誕。
2000-07-XXFreenetの誕生。
2001-XX-XXFreenetからインスパイアされ、金子によるWinny開発開始。
2002-05-06Winnyのβ版を2ちゃんねるで金子が初公開。掲示板上で書き込んだレス番号から47氏と呼ばれる。
2003-11-27著作権法違反 (公衆送信権侵害) 容疑でWinnyユーザーが初逮捕。京都府警察ハイテク犯罪対策室により、愛媛県松山市の無職少年と群馬県高崎市の自営業男性が被疑者。
2004-05-09京都府警による金子の逮捕。
2006-12-13地裁判決。罰金150万円の有罪。
2009-10-08高裁判決。無罪。
2011-12-19最高裁判決。無罪確定。
2013-07-06急性心筋梗塞で42歳での金子の逝去。
2023-03-10映画Winny公開。

2004年に逮捕されてから無罪確定まで7年もかかっています。30代の技術者として重要な時期の多くを裁判に費やすことに迫られ、無罪確定1年半後に急逝ということで、悲劇のヒーローともいえるような金子の時系列でした。

論点

Winny事件でよく上がる論点を整理します。

  1. 出る杭は打たれる
  2. 法律
  3. FOSS

1点目の「出る杭は打たれる」では、今回はユーザーではなく開発者まで罪に問われるということで、先進的で目立つことをする人は、叩かれ、開発者の意欲を削ぐものなので、今回のWinny事件は日本の悪いところだという論調がよくみられました。著者の金子を天才プログラマーとして、悲劇のヒーローとして賛美・評価する声も多い印象でした。

ただ、残りの2-3の観点からみると、必ずしも手放しで評価できるものでもなかったように感じました。こちらは次の節意向で説明します。

法律

法的には、Winnyが著作権侵害の幇助となるかどうかが争点だったようです。

最高裁では、「最高裁は適法にも違法にも利用できるWinnyを中立価値のソフトだとし、「入手者のうち例外的といえない範囲の人が、著作権侵害に使う可能性を認容して、提供した場合に限って幇助に当たる」との判断を下した。」という判断で、4対1の多数決で無罪になっています。

この判決について、法学者が以下のコメントを残していました。

avatar
Winnyね~……。
まず最高裁判決は
「現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識、認容しながらWinnyの公開、提供を行ったものでないことは明らか」
「常時利用者に対しWinnyを著作権侵害のために利用することがないよう警告を発していた」
ことで著作権法違反罪の幇助犯の幇助の故意を否定したわけで,4vs1ならまあこんなもんかとも思う(ただし,同じ事実関係で幇助の故意を認定した裁判官がいたことは特記しておきたい)。

ただね~,これの前提は「Winny自体は適法にも違法にも使用できる」ってところだったんだけど,じゃあ,当時,被告人本人も含めて「合法」に使用していた例が「現に」あったかというとね~。
なかったしょ?(wikipediaではひろみつが無罪判決後に被告人に,合法目的ってどういう使い方?って聞いて,答がなかったってエピソードを載せている。)

で,こういう話を書くとソフトウェア開発界隈から,「こういうことで捕まるのは困る。ソフトウェアというのは包丁みたいなもので,使い方次第。」なんて聞こえてくるんだけど,馬鹿を言っちゃあいけない,君たちはそんな単純なものしか作れないのか?って声を大にして言いたいのだ。いくらでもソフトウェアの側で工夫ができるだろ……と。

そうすると……,本件で「Winnyは合法にも違法にも使用できる」って認定しちゃったことには,私自身も抵抗があるのよ。
(はからずしもひろみつと意見が一致してしまっているが……。)

Winnyを合法的に使用することは不可能で、これを合法にも違法にも使用できると認定したのは抵抗があるという見解でした。

実際、Winny事件ではいくつかこの点を思わせる内容があります。

  • 金子の逮捕時、自身はダウンロード専用の独自改造版のみ使用。
  • Winnyのソースコード非公開は、ダウンロード専用の改造防止のため。

自身はアップロードせず、他人にダウンロード専用はさせない、違法行為禁止の警告を表示するなど、著者の金子がアップロードの違法性を認識していたようです。

2ちゃんねるで公開したのも、誰かがWinnyを使って違法コンテンツをアップロードすることを期待してのことでは?という意見もあるようです。

実際、最高裁判事の1名も無罪に反対しており、そういう意味で、Winnyは違法行為幇助のグレーゾーンに近いものだったと考えられるようです。

P2P技術のソフトを作る場合は、法的に問題ないかを念頭に置いた方がよいのかもしれません。

FOSS

映画公開を受けて、Twitter上でWinny事件前後のP2P技術の情勢について言及があったので掲載します。

まずITジャーナリストがWinnyは最初期のPure P2Pの一つで、Bitcoinにも影響を与えた可能性があるというような、明文していないもののWinnyを肯定的に考えるような投稿をしました。

これに対して、当時世界的なOSSの動向を目にしていた指揮者と思われる人々がコメントします。

世界的にはいろんなP2P技術が登場してきていた中、何故か日本はOSSでもないクローズドソースコードのWinnyだけが広まり、日本が諸外国から隔絶された状況だったようです。世界情勢を知る人からすれば、Winny自体は過大評価されているような感じのようです。

また、上記の投稿でWinny事件について解説動画「技術的解説と裁判記録を読む Winny事件 天才プログラマは本当か? #Winny #初心者のためのセキュリティ – YouTube」が紹介されていました。

WinnyはFOSSではないことから、日本国内でのみ流行し、世界的には一切相手にされておらず、悪い意味で社会問題を起こしたため、過大評価されているのでは?という意見があるようです。

結論

Winny事件についての自分なりのまとめでした。

2000年代初めに日本で非常に大きな話題になった事件でした。YouTubeやSNSなど、Web 2.0的なユーザー生成コンテンツが普及していく前で、Web3の先駆けにもなるような事件でした。

著作権侵害とその幇助という点で、開発者の法令遵守の重要性を認識させられるように感じました。

後は、世界のFOSSから取り残されている、日本の村社会的でクローズドなものの賛美・美談化という、悪しき慣習・習慣を目の当たりにしたような印象も受けました。

身の回りで話題になっているからといって、ミーハーで飛びつくのではなく、客観的に物事を考えることの重要性を感じました。

コメント

  1. This Article was mentioned on web.gnusocial.jp

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