概要
先日投稿した「#fedibirdはトランス差別している人をBANしてください ハッシュタグデモ騒動 | GNU social JP」で、SNSでの差別と反差別が問題になりました。
この記事をまとめる中で、差別とは何なのかという点が気になり、以下の投稿をしました。
ぐぬ管 (GNU social JP管理人)|gnusocialjp@gnusocial.jp基本的にブロックは差別ですからね… 反差別を掲げながらやることは差別。自由を掲げて保守。民主主義を掲げて共産主義。 意味不明ですね… GNU socialには、ドメインブロックという差別のための機能はそもそもありませんし、いりません。 差別 - Wikipedia
このことについて考察します。
差別
まず、差別の定義です。字面上は、「差をつけて別れる」というような意味です。分かれるではなく、「別れる」の漢字からわかるように、人が念頭に置かれています。英語では「Discrimination」となります。
Wikipediaでは以下の定義となっています。
「集団・個人に対して、所属や属性を理由に不当に取り扱う行為」とあります。概ねこの認識で日常との相違・異論はないと思います。
差別対象は項目ごとに以下のような分類になるようです。
どれも、所属や属性がベースになっており、定義と合致しています。
ただし、「不当に取り扱う行為」という差別の内容は告発者と受け手の完成に寄るところが大きく、客観的事実として差別の存在の証明はケースバイケースになるようです。
日本では、憲法14条1項の「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」の規定で、差別は禁止されています。この法律を元に、男女雇用機会均等法、ヘイトスピーチ解消法、障害者差別解消法、部落差別解消法、アイヌセ策推進法などの法令が制定されているようです (人権にかかわる4つの法律の施行について|品川区)。
ただし、これらの法律自体は禁止規定も罰則もない理念法のため、罰則は個別の地方自治体の条例に依存するようです (全国初、罰則付きルールによって、ようやく差別と向き合い始めた行政 | 論文 | 自治体問題研究所(自治体研究社))。
ブロック
差別とは、「集団・個人に対して、所属や属性を理由に不当に取り扱う行為」ということで、SNSでのブロックがまさにこの定義に合致するように感じました。
SNSでのブロックは、一般的にブロック先がブロック元に対して、フォロー、投稿閲覧、メンション通知ができない機能です。ログアウトすれば公開投稿は閲覧できますが、基本的に会話は不能になります。
まず、一番差別の定義で難しい差別内容は、ブロックという行為自体が会話からつまはじきにする、言論自由妨害という「不当に取り扱う行為」にみなせると思います。後はブロック理由です。ブロック理由が所属や属性であれば、差別の定義に合致します。
したがって、所属や属性を理由としたブロックは差別になるでしょう。
例えば、先日のハッシュタグデモはトランス差別者を糾弾するものでした。しかし、反差別を掲げて、トランス差別という思想に関する属性でブロックするならば差別に該当してしまうでしょう。
相手が犯罪者だからといって、相手への犯罪行為が合法になるわけではないのと同じ論理です (正当防衛などの例外以外)。
なお、SNSでのブロックに関しては、過去にドナルド・トランプ元大統領が行ったTwitterでのブロックに対して、言論の自由に対する憲法違反の判決が出ています。
2審判決までなされ、その後上告がなかったようなので、判決が確定したようです。大統領という公人で、市民の声を聴く必要のある立場という点でのブロックへの判断です。一般人とは性質が異なりますが、SNSのブロックによる違法例にはなります。
2023-02-16 Thu追記。なお、その後「告知: mstdn.maud.ioからのドメインブロックと対抗措置 | GNU social JP」のコメントで、この裁判の続報を教えてもらいました (トランプ前大統領のTwitterブロックめぐる訴訟、米最高裁が無効と判断 – CNET Japan)。政権交代で大統領じゃなくなったから無効となって取り下げられたとの報道でした。ただ、実際の書面は、2021年1月に襲撃事件を受けてトランプのアカウントが凍結・削除されたことで、本件が無意味になったことによる却下のようで、政権交代については言及ありませんでした。
日本国憲法では、「憲法21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」への違反相当と思われます。
なお、ユーザーによる通常ブロックが、理由次第で差別にあたることから、分散SNSのドメインブロックはドメイン・サーバーという所属を理由とするブロックなので差別に該当するでしょう。
反差別を掲げておきながら、差別を理由にドメインブロックを行うことは、自分自身が差別を行うことになります。
そもそもユーザー単位のブロックで通常は十分で、ドメインブロックはいりません。ドメインブロックは差別のための機能に思います。これを考えて、冒頭の投稿をしました。
反差別を掲げるならば、所属や属性を理由としたドメインブロック・ブロックを一切行っていないサーバーのユーザーにだけ資格があると思います。自分が差別しておいて反差別を掲げるのは筋が通りません。
Mastodonも反差別を前面に掲げるならば、ドメインブロックという差別のための機能を一刻も早く廃止すべきだと思います。
結論
所属や属性を理由としたSNSのブロックが差別で違法行為に該当するという話でした。
ブロックで違法になる法律を整理すると以下となります。
反差別や「差別は良くないね」というのは聞こえのいいフレーズです。しかし、実際はもはやわざわざ意識しないレベルで日常的に、自分の気に入らない属性の人物に対してブロックを行う差別者でSNSは溢れています。
日本では差別は違法であっても罰則がありません。せいぜい、名誉棄損、誹謗中傷、業務妨害などで訴訟したり取り締まるしかありません。逆に、言論の自由が広く認められていることでもあります。
認知の有無は別にしても、ブロックのように差別は日常に存在します、根絶は現実的ではありませんので、わかったうえでできることをするしかないと思います。差別者に対する一番の復讐は自身の幸福の実現でしょう。結局、差別があろうがなかろうが、自分自身の幸福、目標実現に向けて精進するしかありません。
分散SNSで反差別を掲げて実現するのであれば、ドメインブロック機能の存在しない実装を使うか、ドメインブロックが0件のサーバーを使うしかありません。
Friendica/Mastodon/Misskey/Pleromaにはドメインブロック機能が存在します。ドメインブロックの存在しない実装は、私の知る限りGNU social/Nextcloud Social/WordPressが該当します。
ドメインブロックの有無は「ドメインブロック確認サイトfedi-block-api | GNU social JP」で紹介したサイトで確認できます。
反差別を掲げながらブロックという差別を行う人物は、平気でダブルスタンダード (相手は駄目だが自分はいいという二重基準) を適用するので厄介です。
そういう意味で、ドメインブロックの存在しないGNU socialユーザーは反差別の実現に近い立場です。私自身もドメインブロックのようなあからさまな差別には嫌悪感・抵抗感がありますので、反差別の意思を示していきたいと思います。
詳細プロフィール。SNS: Twitter/GS=gnusocialjp@gnusocial.jp/WP=gnusocialjp@web.gnusocial.jp。2022-07-17からgnusocial.jpとweb.gnusocial.jpのサイトを運営しています。WordPressで分散SNSに参加しています。このアカウントの投稿に返信すると、サイトのコメント欄にも反映されます。
コメント
法学を学んでいる者として、極めて興味深い指摘に思えます。しかし、私の勉強していることと対照して違和感を感じました。もしお時間よろしければ質問をさせていただけませんでしょうか。
まず、現在係争中のドメインブロックの件に関しては、私は特に意見を持たない旨を最初に書いておきます。つまり、以下は純粋なる法学徒としての興味から管理人様に見解をお聞きするものであって、以下の文章は「具体的に誰が悪いか」を決めるものではないという認識です。
1. 他記事における言及等を一通り読んだ上でなのですが、本記事において最終的な対象となっているのはあくまで「ドメインブロック」ということで間違いないでしょうか。以下はすべてこれを仮定しております。
2. 日本や米国が判例主義であることは確かにそのとおりですし、トランプ氏の件に関しても判例が出ていることは確かです。しかしながら、そもそもアメリカと日本の法体系には英米法・大陸法と呼ばれる違いがあるように、判例が持つ重みが全く異なります(例えば、アメリカには六法全書に相当する法律文書は存在しません)。管理人様が述べておられる主張はそれぞれをただ併記したのみであって、「仮に日本で判例を作るとしてもあまり意味をもたないのではないか」と感じています。この点いかがでしょうか。
3. Fediverseに関しては不勉強ゆえ誤りがあるのかもしれないのですが、私は「所属先サーバー」の概念は「個人に紐づく属性」ではないという認識をしております。仮に太郎さんがサーバーAとサーバーBに別々にアカウントを持っていたとして、更にまた別のサーバーCからサーバーAをドメインブロックしていたと仮定します。すなわち、サーバーCとサーバーB、サーバーAとサーバーBは通信可能だが、サーバーCとサーバーAは通信不可能であるとします。このとき、太郎さんは差別されたと言えるかどうかです。憲法における当該条文「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」をここに適用できるというのが管理人様のお考えであるというのが私の理解です。この理解はまず合っているものでしょうか。
4. この質問は(3.)の続きです。というのも、私はこの部分で違和感を覚えたのです。2点理由を挙げます。それぞれに管理人様との意見の相違が存在するため、ご意見を伺いたいです。
4-a. まず、私は太郎さんは個別には差別されていないと考えます。なぜならば、この場合差別されたのはサーバーAそのものであるためです。サーバーBは差別されておらず、太郎さんはサーバーBのアカウントを用いて仲良く話をすることができます。サーバーCにおいてサーバーBとの通信を容認していることは、太郎さんが仮にサーバーAからサーバーBに移行したとしてもそれを咎めないということを含意しますから、少なくともドメインブロックは太郎さんに対しての効力をもたないのではないかと考えます。
4-b. Fediverseにおいてのそもそもの「分散しよう」というモチベーションの源泉の一つには A Cypherpunk’s Manifesto(https://www.activism.net/cypherpunk/manifesto.html)における「privacy と secrecy の違いを自ら決定することができる」という考え方が存在すると理解しています。このことを踏まえますと、Fediverse における所属先サーバーの決定とは「信頼する先を決めること」だと解釈できます。そうしますと、我々が(3.)の例でサーバーAに対して行ったドメインブロックは「サーバーAを大局的に信頼しないこと」だと思えます。つまり、我々が検討すべきことは「ある信頼対象を信頼しないことがそのまま差別に当たるかどうか」ではないでしょうか。
(4-b.)への補足としまして、「太郎さんがサーバーAを信頼することを毀損することがドメインブロックなのだ」という考え方も可能なのですが、これは(言葉を濫用しますと)「信教の自由」の方向から考えるべきことかと考えます。これはあくまで思考実験なのですが、そう考えると本記事における主張は「信教の自由を守らないのは良くない」という至極真っ当な主張として解釈できるのです。ただし、ある宗教を邪教と考えることすらも(対外的な実力行使に出ない限りは)認められている日本における自由性からしますと、本記事におけるような違法性を訴えても阻却されかねないのではないかとも考えます。
最後になりましたが、問題提起として興味深く、また示唆的なものでもありました。どうか返信いただければと存じます。
1. はい。ドメインブロックが差別だと思っています。
2. 併記したのみというのはそのとおりです。参考情報として載せただけです。ただ、過去に事例・判例がないので、判例作ることが無意味とは思いません。後の人が参考になります。
3. はい。憲法の該当条文がドメインブロックに適用できる可能性があると思いました。
4-a. ドメインブロックに効力がないとは思わないです。たまたま相互接続できますが、サービス内容、利用規約がサーバーごとに異なります。例えば、Aは政治的な発言が許容されているが、Cでは政治的な発言が禁止されている場合、ユーザー体験、サービス内容が異なります。他にもソフトウェア的な機能も違います。この例だと、Aの条件でのBへの会話・参加ができないという点で、所属ユーザーへの差別になるのではないかと思いました。例えば、匿名を確保するためにTorBrowser経由で使う場合、JavaScriptに依存しているサーバーは使えなく、選択肢がかなり限定されます。また、太郎がサーバー管理者の場合、AからCへの管理権限の移転は普通できません。
4-b. 分散SNSのモチベーションの一つにそういう概念があるというのを私はよく知りません。私は自由ソフトウェア運動の一種だと思っており、分散SNSの理想は一人一台の個人サーバー、あるいは家族など組織単位のサーバーだと思っています。プライバシーは自由ソフトウェア運動の中ではおまけみたいなものです。ソフトウェアが自由で、自分が管理者として運営・使用できれば、何とでもなります。信頼の有無を論点に考えているようですが、私は関係ない気がしています。4-aにある通り、サーバーごとに機能や内容が異なります。Aという独自のサービスの利用に物理的な制限をかけたという、制限が不当行為 (差別の中身) にあたると思います。信頼の有無は関係ないと思います。不当行為の中身 (物理的な制限など) が大事だと思います。
なお、私は無料の法律相談や書籍、インターネットの情報を駆使して、上場企業相手に本人訴訟をしたことはありますが、別に法律の専門家ではありません。単に、Wikipediaに記載のある一般的な差別の定義と既存の法律の字面を照らして、それを論理的につなげて判断しただけです。一般的に見たら屁理屈だとかこじつけ、無理があるという意見はあるかもしれません。憲法を私人に直接適用するのは難しいのではという意見も見ています。
法律の中で差別が厳密にどう定義・解釈されるかはわかりませんが、一般的な差別の定義からすると、(所属・属性を理由とした) (ドメイン) ブロックは差別に該当するだろうというのがこの記事の趣旨です。
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